バンゲリングベイの真実



みなさんはバンゲリングベイというソフトがただのシューティングゲームだと思っていないだろうか。実はこのゲーム、かなり細かいストーリー背景が存在するのだ。説明書にはほとんど記されていないが、私は幼少の頃に入手した攻略本により、その詳細を知る事ができた。なぜ空母とヘリだけで戦わなければならないのか、一体どこで戦っているのか、敵であるバンゲリング帝国とは一体何者なのか、その全てがここに明かされる。


 198X年、北アメリカ大陸を離れること南に数百キロのカリブ海洋上。アメリカ合衆国海軍の誇る精鋭、第2艦隊は、かつてない大規模な作戦演習下にいた。海軍、陸軍、空軍と国防総省の軍事化学研究チームの参加する、ひさしぶりの大演習であった。その主な目的は、

  1. 新造空母の実戦性能演習
  2. 新型の攻撃ヘリのテスト
  3. 極秘のうちに改修されたQ型戦艦の護衛

 これらの作戦目的は、艦隊の上級士官しか知らされず、また彼らも、それ以上のことは何も知らされなかった。
 Q型戦艦とは、アメリカ海軍が21世紀の戦力として開発した史上最強の戦艦である。もともとは10年以上も前に建造された艦だったが、西海岸の造船所で改修を受け、最新の武装を身につけて生まれ変わったのだ。

 その後、Q型戦艦はテスト航行のために数隻の巡洋艦とともに出港し、パナマ運河を通ってカリブ海へと出てきたのである。その武装は最重要機密とされ、艦長とこれを出迎えるために南下する第2艦隊司令官しか知らなかった。
艦隊司令官ジミー・ハーディー。その冷静な判断力と不屈の闘志により、「鉄の男」と呼ばれる海軍提督である。
 Q型戦艦とランデブーするため、カリブ海Xポイントへ向かう第2艦隊。その数、およそ70隻を率いるハーディー提督は、何やら不思議な胸騒ぎを感じていた。提督の乗る旗艦は、建造されたばかりの空母ロナルド・レーガン。この、世界最大の原子力空母と、世界最強の戦艦の出会いは艦隊全員の胸をときめかしていた。だが、提督は不吉な予感を感じざるを得なかった。
 カリブ海に散らばる無数の小島。その中を隊陣を組んだ第2艦隊が進んで行く。その最先鋒は、Q型戦艦とのランデブー海域に達しつつあった。と、その時、突如まばゆいばかりの白光が水面下に現れた。光は海上へとあふれだし直径10キロメートルほどの光球となって、みるみる艦隊を包み込んでゆく。やがて、光は艦隊すべてと、いくつかの島々を飲み込んでしまった。洋上には、頂きが上空5キロに達しようかという光の半球体が出現した。
 その怪光は、遠くアメリカ南岸、フロリダ半島からも観測された。そして、第2艦隊からの全ての通信は途絶した。
 やがて怪光が消え去ると後には「無」が残されていた。あらゆるものが存在しない暗黒の空間。黒い巨大なドームが、第2艦隊と島々をおおい沈黙していた。
 第2艦隊に起こった異常は上空を飛ぶ空軍機からも観測された。だが、この海域の中へ入る事は不可能だった。直径10キロメートルのドームは、どのようなものも寄せ付けなかった。例えば、この暗黒空間に東の端から入ろうとした船は次の瞬間、西の端の外側にいる自分を発見していた。また、北から進入した空軍機は、一瞬のうちに南へと出現した。このようなワープ現象により、謎の空間の内側に入ることは、完全に不可能となっていた。電波もまた同じであり、電波の反射によって物の存在を知るレーダーも、水中を音波により探知するソナーも使うことはできなかった。こうしてハーディー提督以下、第2艦隊の全艦は未知の空間に引き込まれたのだ。
 空母ロナルド・レーガン。その全長は300メートルを超え、F-14、F-18をはじめ50機以上の艦載機を持つ。
 あの、まばゆい白光が確認された時、司令官ハーディーは悪い予感が現実のものになりつつあることを知った。彼は未確認ながらも、核による攻撃を想定し、全ての乗組員に対核戦闘警報を発令した。ただちに艦全体がシールドされ、外部から隔絶された。この警報は第2艦隊全てに通報されたが、時すでに遅し! 空母レーガン以外の艦は全て船内にまで白光に満たされていた。
 水中翼を持つ快速攻撃艇、陸軍の新型戦車M-1を積んだLST、同じく陸軍の野戦高射砲や対空ミサイル、野戦レーダーを積んだ輸送船、駆逐艦など第2艦隊の全てが光に包まれ、全員が光を浴びていた。
 やがてこれらの艦の乗組員はみるみる、未知の力により、何か人間でないものに変身していった。次に一切のコントロールが効かなくなった。
 突然、光の空間から暗黒世界の兵士が出現した。空母レーガンを除く全ての艦隊は、こうして正体不明の敵の前に脆くも崩れ去り、勇敢な兵士達も一瞬の内に倒されてしまった。
 これらの超常現象は、演習のため上空にいたF-14戦闘機、F-18攻撃・爆撃機にも起こっていた。また、既に上陸演習のため島々に散開していた海兵隊や陸軍兵士の身にも、同じような不幸が襲い掛かり、彼らは尊い命を失った。
 やがて、白光が消えた。だが、空母レーガン以外の全ての艦隊勢力は、未知の暗黒兵団に支配されていた。その兵士達とは、ガイコツの骨格と、メカの内臓をもったサイバーダイン兵士たった(バンゲリングベイのパッケージ参照)。
 シールドを解除した旗艦レーガン。だが、その視界に入ってきたのは、いくら無線通信で呼び続けても応答なく沈黙を守る第2艦隊の姿だった。それは、まさに幽霊艦隊であった。通信は海域の外からも、全く入ってこなかった。また、空母レーガンからの発信も全く届いていないようだった。
 先ほど、謎の怪光に包まれた直径10キロメートルほどの海域。その周辺部は、薄明かりに照らされ、不思議にもその外を確認することはできなかった。どのような望遠鏡を使っても、その先を見ることはできないのだ。
 こうして、空母レーガンは、幽霊艦隊と化した第2艦隊と共に、謎の空間に閉じ込められてしまったのだ。
 このような常識を遥かにこえた超異常事態にあっても「鉄の男」ハーディー提督の冷静ぶりは、全く変わらなかった。一度はパニックを起こしかけた上級士官も、尊敬する提督ハーディーの落ち着きぶりを見て、我にかえった。そして、自分達のうろたえぶりを恥じ、本当の海軍軍人魂を取り戻した。
 提督は空母レーガンを180度転進させ、合衆国南岸に向けて脱出行につくことを決めた。この異常な現象下にあっては、とりあえず未知の海域から脱出することが先決と考えたのだ。機関室に命令が伝えられ、巨大空母は最高速力で北上を始めた……。
 一路、北へ向けて進む空母レーガン。異常な現象の起こる作戦海域を脱出して、合衆国海軍との通信を可能にしなけれはならない。そして、艦隊を再び結集して、未知の敵に反撃するのだ。その速力は40ノット。原子炉とタービン機関はフル回転していた。
 だが、ここにもひとつ信じられない現象が起きていた。空母レーガンがいくら北進しても、いつのまにか同じ場所に戻ってきてしまうのだ。艦のコンパスは正常に動き、レーガンがピッタリと北へ向かっていることを示している。にも関わらず、同じ海域を堂々巡りしているのだ。
 どうやら、未知の敵がこの海域全てを支配しているようだった。その敵は、空間そのものを歪ませているのだ。だから、いくら北へ進んでもいつのまにか南へと現れてしまう。ある、どこかの地点で、北の端と南の端がつなげられているに違いなかった。
 このような考えられない異常事態に遭遇してもなお、ハーディー提督は落ち着いていた。だが、次の瞬間、さすがの提督も緊張せざるを得なかった。空母レーガンの通信機に未知の敵から通信が入ったのだ。
 敵は自らをバンゲリング帝国と呼んだ。そのメッセージはVHF波で映像とともに送られており、艦内すべての乗組員は、各部所のモニターテレビを通じて敵の正体を知る事ができた。その姿は、まさに異様の一言に尽きた。彼らは生物機械人だったのだ。
 バンゲリング帝国、それは恐るべき次元侵略者である。あらゆる次元、あらゆる空間を自由に移動することができる。そして、彼らの操る次元波動機は、空間さえも捻じ曲げることができるのだった! そう、この不思議な空間こそ、彼らが作ったバンゲリング界なのだ! この空間は、北と南、東と西がその両端でつなげられている。そのため、いくら一方向に進んでも同じ所に戻ってきてしまうのだ。メッセージを送ってきたバンゲリング帝国の司令官は、もはや、とらわれの身となった空母レーガンに対し、降伏を勧めた。そして、彼らの目的を話した。
 その目的は、全地球の制圧にあった。彼らは、この緑多き自然の星を欲しがっているのだ。高度な科学技術文明をもつ帝国にも、ただひとつ失ってしまったものがあった。それは「自然」である。彼らは、自分達の体でさえも機械化していた。ガイコツのような体に、機械のようなむきだしの内臓。そんな機械化人間の彼らにも、自然を愛する心は残っていた。それゆえに彼らは、緑の星「地球」を欲しがったのだ。
 バンゲリング帝国は、侵略の第一歩として前進基地を作った。それがこのカリブ海であった。彼らは捕獲したアメリカ軍の兵器をモデルにして、帝国軍の超科学工場で無限増殖を始めていた。無限増殖とは、生命のない機械に生命を与え、これをクローン培養によって無限に増やす超科学だった。
 帝国の兵器に比べれば、地球の兵器などオモチャのようなものだった。だが、超兵器を使えば地球の自然さえも破壊してしまう。そこでバンゲリング帝国は地球人の兵器で、地球人を滅ぼすことを決めた。まもなくバンゲリング界の小島に作られた6工場で、F-14戦闘機やF-18攻撃・爆撃機をはじめ、多くの兵器がクローン生産されるのだ。そして機械化人間であるバンゲリング兵士も、この6工場で無限増殖されるのだという。また、この大変動で行方の知れなかったQ型戦艦も既に彼らの手に落ちていた。最新の装備をもつ、この戦艦もまた、ある島のドックでバンゲリング改装を受けているのだという。
 こうして今までの超常現象の、全ての謎は明らかにされた。敵司令官によれば、おとなしく帝国に降伏すれば命だけは保証するという。無限に増殖を続ける敵を相手に、勝利の見込みはない。全ての乗組員の表情は暗かった。
 帝国からのメッセージが終わり、沈黙していたハーディー提督が口を開いた。この老提督の顔は悲痛にに満ちていた。捕われたQ型戦艦の秘密を知る提督にとって、勝ち目は万に一つも無かった。だが、ここで戦艦の改装や無限増殖を許せば、世界があっという間に制圧されることも事実だった。
「諸君! 戦おう。」
提督の声は、スピーカーで空母レーガンの将兵全てに伝えられた。もはや、勝利をあきらめていた全乗組員だったが、この海軍きっての「鉄の男」の演説は、再び彼らを立ち上がらせるのに十分なくらい勇気と希望と幸福に満ちていた。
 今、ここで彼らに降伏したら反撃のチャンスはゼロである。といって戦っても勝ち目はないだろう。しかし、たとえ小さくとも敵に被害を与えられるかもしれない。彼らの世界侵略開始までの時間を少しでも延ばせるかもしれない。そしてQ型戦艦を運良く破壊できるかもしれない。たとえ、これらが全て失敗に終わっても、この最新空母レーガンを敵に渡すことだけは避けられるだろう。アメリカ第2艦隊最後の空母レーガン。今、このバンゲリング界で、艦隊の敗北するときは、レーガンの沈む時だった。
「諸君! 名誉のために戦おう。そして勝とう!!」
 ハーディー提督の最後の言葉が終わった時、艦内は熱気と興奮に包まれていた。全将兵は、自信を取り戻し、合衆国への忠誠のため戦うことを決意した。空母に残された艦載機は、わずかに新型ヘリが5機。だが、意欲に燃えた隊員にとっては十分であった。彼らは、たとえ残された武器が弓矢ひとつ、斧ひとつであっても戦う意志をなくしたりはしなかっただろう。
 攻撃ヘリ・シーアパッチ。陸軍の誇る地上攻撃ヘリ、アパッチを空母用にしたものである。バルカン砲と9発の爆弾を持ち、ジェット戦闘機なみのスピードで戦場を飛ぶ。空母から飛び立ち、沿岸の島々や船を攻撃するため、その航続距離も長くなっていた。
 こうして、ハーディー提督率いる空母レーガンは、アメリカ第2艦隊の名誉をかけて戦いを開始した。バンゲリング作戦の始まりだった。

 明日のために………

 


以上「ケイブンシャ大百科別冊 ファミリーコンピュータゲーム必勝法シリーズ3 バンゲリングベイ」より抜粋した。ゲームの攻略法ばかり書いている攻略本のなかで、この攻略本の出来は素晴らしい。あくまでも、世界観を第一にしているのだ。例えば空母レーガンの移動について、
「バンゲリング帝国が支配するこの10キロの海域を我がR・レーガンは、約8分40秒ほどで一周する。外の世界とは完全に引き離された世界ではあるが、時間だけは外の世界と同じに進んでいるらしい。
 祖国にいる父母、そして妻や子供も、同じ時間を生きているのだ! そう思うだけで奴らと戦う勇気が沸いてくる。」
と解説していたり、ゲーム中、自機がダメージを受けると海の色が赤くなっていくが、そのことについても、
「海が真っ赤に燃えるとき、戦いの勇者がまた散って行く。」
と記している。私はこの素晴らしい攻略本に出会ったからこそ、このバンゲリングベイというゲームに愛着を持っているのかもしれない。バンゲリングベイの開発スタッフ、そしてこの攻略本の編集者の方々に深く敬意を表します。

 


おまけ 主要登場兵器の性能

 

シーアパッチ AH-16

シーアパッチはアメリカ海軍と陸軍、海兵隊が共同で開発したスーパーヘリである。その初飛行は1987年で、まだテスト訓練中の攻撃ヘリである。その武装は、コンピュータでコントロールされる30ミリ・バルカン砲1門と、高性能爆弾9発。また、特殊な防弾構造をもった機体は、少々の攻撃にはビクともしない。夜でも敵を探せる赤外線スコープと、母艦の位置を知る超レーダーをもつ。
可変の回転翼12〜18メートル
全長26メートル
時速880キロメートル
タービンエンジン1基+ジェットエンジン2基

 

原子力空母R・レーガン

空母R・レーガン、それはニミッツ級の原子力空母の4番艦として建造された最新鋭の空母である。艦乗組員3061名、航空機乗組員2627名の大所帯だ。カタパルトは4基、航空機最大搭載機数は95機。そしてなんと燃料の交換は13年に一度、燃料補給なしで地球を40周出来る(ただし通常運航時)。武装は、バルカン・ファランクスが3門、8連装シースパローランチャーが3門である。普段はヴァージニア州ノーフォークを母港としている。まさに海に浮かぶ鉄壁の砦といえよう。
全長332.8メートル
全幅76.8メートル
速度30ノット

 

アイオワ級Q型戦艦

この戦艦はアメリカ海軍が極秘の内に建造を進めていたもので、アイオワ級ニュージャージーに相当することは分かっているのだが、詳細は不明である。多数の対艦ミサイルと大口径16インチ砲、頑丈な装甲、対核戦用として十分な兵器、装備をもつ原子力戦艦で、コードネームはQということでQ型戦艦と呼ばれている。バンゲリング帝国が最終兵器を搭載するために捕獲された。その兵器は重力波をコントロールして離れた敵を破壊するというものらしいが、詳しいことは分からない。
全長210メートル
詳細不明

 


 

このような設定を知れば、このゲームはさらに楽しくなる事と思う。それでは諸君の健闘を祈る。

「わが栄えある第2艦隊旗艦、空母R・レーガンの全将兵に告ぐ!!

1806時、我々は未知の敵と遭遇した。

敵の使用する怪光により、我が第2艦隊は本艦を残し、全て壊滅した!!

現在、本艦は約10kmの海域に閉じ込められ脱出は不可能!!

我々の残存兵力は本艦及びテスト中の新型ヘリ5機。

只今より、飛行戦闘隊により未知の敵工場攻撃作戦に入る!

これは演習ではない。

繰り返す

これは演習ではない。」 

 

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